|行政:北海道豊浦町標高:290m
1/25000地形図:礼文華峠(室蘭5号-3)調査:1999年8月



 ツーリングマップルなどでは国道のほうに「礼文華峠」の表記があるが、礼文華トンネルと礼文トンネルの上部を越していく旧礼文華峠は厳として残っており、地形図にも記載されている。西側の入り口は、分水嶺でもある黒松内町と長万部町の町境の付近から。礼文華に向かって左手に林道が分岐し、その奥10mほどのところから国道に平行する旧道が始まる。取りつきの部分は国道法面の上を行くが、当然ガードレールなどないので、ちょっとしたスリルが味わえるかも知れない。やがて1車線幅が草に蔽われて狭くなった地道の登りとなり、緩やかにトラバースしながら峠へとつながっていく。この付近にはミズナラの巨木が道ぞいに並び、さながら並木道の様相を呈していて面白い。


 峠には20分もあれば充分にたどりつける。荷物が少なければあるいは乗ったまま行けるかも知れない。峠は礼文華隧道の真上に当たるが、展望を望むことは残念ながらできない。また、峠の看板の類も存在しない。あるのは草に蔽われた峠の空間と、その上を蔽う青い空だけである。そんな寂しい峠ではあるが、以前は車が行き来していたという事実に思いを馳せると、得も言われぬ感覚を味わうことができるであろう。

 「礼文華」の名の由来はアイヌ語で"repun-ke-p"、「沖へ出ていく所」であるとされている。噴火湾に向かって山塊が突き出している様子を言ったものだとも、ここから沖へと漁に出たからとも言われている。両側を山塊に挟まれた礼文華は、いかにも港町といった体の入り江の集落である。


 峠から東側は少し雰囲気が変わる。今までは山の一方をひたすらに登っていく道であったが、ここからは山の斜面を幾重にも巻きながらゆっくり下っていくことになる。道の残り方としてはこちらのほうが優れている。ミズナラの森が深いことに加え、よほど頑丈に道が作られたと見えて、轍を蔽う草もどこか力無げだ。日がさし込むあたりで少し難儀するかという程度で、ほぼ100%乗車可能の、静かな静かな道である。

 最後は豊浦町の森林公園付近へ出てくる。舗装と合流する地点はJR室蘭線の礼文華トンネルの入り口付近。トンネル上部を渡って反対側に出、礼文華中心部へと下っていくことになる。報告者は森林公園をベースとして上記の逆コースをとり、礼文華、静狩と回ったが、こちらから登ってももちろん遜色ない。

 なお、今日の国道トンネル(礼文華トンネル)は97年に完成、98年に供用を開始した新しいものである。報告者が訪れた1999年には、その脇に旧隧道(礼文華隧道、礼文隧道)がそれぞれ残っていた。隧道旧道の運命として、今頃はもう土か何かで”封印”されているのであろうか。


 

 

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