行政:北海道豊浦町 標高:120m
1/25000地形図:豊浦(室蘭5号‐2) 調査:1999年8月


 礼文華峠に引続き、虻田郡豊浦町の旧道である。豊浦町は左右を山に挟まれた格好になっており、しかもその山は垂直に近い角度で海へと落ち込んでいる。国道230号はそんな海沿いを行くことが出来ず、この町に入るにはどちらも山中のトンネルを抜けていかねばならない。西は礼文華トンネル、東は豊泉隧道ほか小さなトンネルがいくつも続く。礼文華トンネルもそうであったが、この豊泉隧道の上部にも、人知れず旧道が残っているのである。簡単に言えば、西側のトンネル口のある谷から峠を越えて海岸側に出、そこをトラバースしながら虻田へと抜けていくことになる。ただし、海沿いだからといって展望を期待することはできない。完全な廃道であるから。


 西側入り口の分岐は少々わかりづらい。豊浦町中心部からトンネル方向へ少し進んだところにある。斜めに分岐する砂利道であり、この砂利道を行くとやがて高速道路の「豊浦6」高架を潜る。その先で道は二手に分かれるが、直進する道が峠への道、地形図の実線道である。このあと嶺近くまで登ってからいったん虻田町とは反対方向の西向きに走る。ふもとからおおよそ20分くらいで峠。ここでまた道は二手に岐れており、左手に伸びる、明らかに人の入った痕跡のない道がここでいう豊泉隧道の旧道である。


 ここまでは普通の地道であったが、ここから先はただ延々と草のみが茂る道である。しかも嫌らしいことに、下れば下るほど廃道度が高くなっていき、引き返そうにも返せなくなるような道である。道幅としては1車線ほどなのであるが、草の深い所では腰の高さを軽く越えて繁茂しており、鉈や鎌のようなものがないとずいぶん苦労させられるであろう。幸いなことに崖崩れや自然木で道が塞がっているということはないので、格闘の相手はこの深い草だけである。木が繁って日陰となっている部分では、少しだけ振り返る余裕もあるかも知れない。
 格闘しながら進むこと数十分、車のエンジン音が聞えるようになって隧道の向こうに出たことを知るのだが、やはりちっとも進めないし、その車道までは下れない。このあたりは日が射す斜面なので、若い草がびっしりと蔽っている。高速道の上部を越え、豊浦噴火湾パーキングの裏手でようようのことでまともな車道となる。10%の坂で「豊浦8」高架を潜れば国道に復帰できる。

 豊浦町が町制をとる前は「弁辺村」という名前であった。アイヌの人々がこの地を「ペウンペ」(水が出る処)と呼んでおり、それを取り入れた名前であったという。しかし「べんべ」という響きがあまりきれいではないので、町制を敷く際に現在の「豊浦」に改名された。豊かな山と浦に囲まれた土地である、という意味を込めたのだそうだ。改名に際して、弁辺が「古くから使われてきた由緒ある地名であったこと、またそれを改変すること」と認識した上で、議会での採決がとられたのだと、地名辞典の豊浦町の項に書かれてあった。できることならば、そうした「思いやり」も後世に残してほしかったと思う。「なぜ豊浦町というのか?」という問いに、果して何人の豊浦町民が答えられるであろうか。


 

 

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