|行政:岩手県雫石町〜沢内村標高:480m
|1/25000地形図:北川舟(秋田3号‐4)調査:2002年8月



 沢内盆地――は、岩手県の最西端の一角にあって、秋田県と、山脈を一つ隔てて隣接している。ここは、昔、南部藩の隠し田、と呼ばれていた。秘境だからである。この盆地へ入るには、雫石から来て、山伏峠を越えねばならなかった。盆地は、東西にごく狭く、南北にひどく長い形をしている。

 伊藤桂一の「峠を歩く」(日本交通公社刊)では、こんな書き出して山伏峠の紹介が始まる。彼はこの中で、沢内に伝わるマタギの技法、峠にまつわる村民の思い出語りなどを収集する一方、旧山伏峠を訪れる計画も立てていたようだ。が、結局は旧峠には行けずじまいで、草の薄くなる雪解け直後にもう一度来よう、という所でこの一節は終る。
 そんな情報を得ていた私は、ハナから旧峠へ向かうことをあきらめていた。現在の峠は昭和12年に完成した山伏隧道の下を抜く新山伏トンネルであり、その旧トンネルを訪れて茶を濁すつもりでこの地を通っている。

 伊藤氏も本の中で書いているように、沢内村は東西に狭く、南北に長い形をしている。北は山伏峠で、南は和賀川が形成する「サコ」で塞がれた恰好のこの村は、確かに秘境であり得たかも知れない。しかし現在は、川沿いに開かれた2車線の舗装道と、同じく2車線の新山伏トンネルによって、人も文化も自由に行き来している東北の一山村に過ぎない。そのほうが住人にとっても幸せであるだろう。


 山伏隧道への道は、緩やかな登り坂の先に新山伏トンネルが見え始める頃に分岐する。そこまでの勾配と変わらない、ごく緩やかな坂道のまま、隧道へ。しかしながら、この隧道は通り抜けることができなかった。村の農産物を貯蔵する施設として使われているからだ。


 トンネル口いっぱいに張られた壁には、この施設───「雪っこトンネル」というらしい───の説明板も下げられている。冬に降った雪を貯蔵し、その冷気とわずかの電力を使った貯蔵庫であることを、この看板は教えてくれた。トンネルを道として以外の用途に使う例は多いはずだが、実は報告者、これでやっと2例目なのである。

 

 

 

 なお、新山伏トンネルの沢内側には昭和12年の開通記念碑が移設されている。この碑だけでなく、特定区間の改修を記念するものと思われる小さな開通記念碑も、雫石側の道すがらに多くある。


 

 

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