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こだわりの分水嶺


分水"例"-8.分水嶺の定義いろいろ

 この『分水嶺辞典』は、大阪大学サイクリング部が1986年に企画した『中央分水嶺走破』の資料をもとに作成しています。これは日本海と太平洋、あるいは他の海域とを分ける線である「中央分水嶺」を越える峠を自転車で走り、コースガイドを作成しようという企画でした。県境や町境のようにはっきりとした区分を持たない分水嶺は、それを定義する具体的な資料がほとんどなく、当時の部員も地形図と首っぴきで「独自案としての中央分水嶺」を定義したそうです。
 一口に「日本海と太平洋を分ける線」と書きましたが、これをきちっと定めるのはなかなかやっかいな仕事です。信州や中部などは明白な線を引けるので問題ないのですが、青森や山口など、端に行くほど定義があいまいにならざるを得ません。どこまでが日本海でどこまでが太平洋か、それによって分水線が通る位置も異なってしまいますし、例え海域が明確に定義されていたとしても、北海道と本州、本州と九州など陸地どうしのつながり方との間に感覚的な「ずれ」が生じてしまうことがしばしばです(距離的に見て北海道と最近接の下北半島ではなく、龍飛岬に分水線が引かれることになったり)。また、北海道から本州、そして九州にかけて一本の線を引けるのは明らかなのですが、そうすると四国の立場はどうなってしまうのか。四国を含めるとなるとそこへ向かう枝分水界も定義すべきではないのか。そもそも四国は含めるべきでないのではないのか。選定に当たった先輩方もずいぶん悩んだのではないかと想像されます。
 『分水嶺辞典』を作成し始めた当初も、分水嶺をどこに取るかで考えさせられました。結局は国土地理院発行の『日本国勢地図帳』に水系図があることを知り、そこで定義された分水嶺にOUCC選定の分水嶺をマージする形で中央分水嶺を再定義し、これに沿って作成しています。
 その後編集を続けていくうちに、上記の2つ以外にも「分水嶺」の定義がいくつか存在することを知りました。ここでは、こうした分水分水嶺の定義をまとめて紹介したいと思います。また、本文中で使用する地図を近藤氏方式の「道と分水嶺の位置関係がわかる地図」に変えたのを受け、これまで使用していた日本地図に分水嶺を書き込んだタイプの分水嶺地図も書き直してみました。下で紹介する分水嶺の定義のいくつかを併記しています。

 ちなみに、いわゆる分水嶺を表す言葉もいくつかあります。『日本国勢地図帳』では水系を分ける嶺をつないだ線として「分水界」という言葉を使っており、同じ海域に流れ込む水系を区分する線を「大分水界」として区別しています。「中央分水嶺」も「大分水界」と同じ意味ですが、私は『嶺』という文字からの連想で実地にある山や峰を指してこれを使うことが多いです。地図上の線として意識する時には、「分水界」あるいはもっと強調して「分水線」という言い方をしています。「分水嶺」という言葉は、本来ならば『水を分ける嶺』ということで分水界と同じ意味合いのはずですが、たいていは日本海と太平洋の分水界にしか使う機会のない言葉なので、『「分水嶺」=「大分水界」』という図式が一般的なようです(逆に単なる峰を分水嶺と呼ぶ例もあるようですが・・・)。私も特に断りのない限り「中央」を省いて分水嶺と呼んでいます。


・分水嶺地図
 北海道(48kb)|東北(72kb)|関東・中部(72kb)|関西(64kb)|中国(40kb)|四国(64kb)|九州(54kb)

・定義のいろいろ

■国土地理院『日本国勢地図』の分水界地図(水系図)
・北海道は宗谷岬、知床岬、襟裳岬、白神岬の4つの岬を出発点とする4つの大分水界がある。
・本州の大分水界北端は竜飛崎。
・福井、岐阜、滋賀の3県県境で大分水界は枝分かれし、四国へ至るもの(鈴鹿山地〜紀伊山地をつないで四国の孫崎に至る)、中国山地を通るものの2つになる。
・中国山地の西端は下関ではなく、豊浦町と下関市の境を西に向かったところで切れる。
・四国の大分水界は孫崎から吉野川の北側を通り、中央部を抜け、愛媛と高知の県境付近から豊後水道寄りに北上したあと、佐田岬へ。
・九州の大分水界北端は福岡県水巻町と北九州市の境の付近(遠賀川の左岸)から始まる。四国からの大分水界は大分県の地蔵崎に上陸し、大分県と熊本県、宮崎県の県境付近を抜けて阿蘇周辺で九州の大分水界と合流。
・九州にはこの他、英彦山付近から長崎方向へ向かう大分水界もある。西端は大浦湾に向かう所で切れる。九州の大分水界南端は佐多岬。

■OUCC選定の中央分水嶺
20周年記念の際に、部員の手によって選定された。まったくゼロの状態から選定が始まった(他に分水嶺に関する資料はなかった)と思われる。
・本州最北端は竜飛崎。
・中国編に誤りがある(江川流域の一部が太平洋側になっている)。
・中国〜九州にかけては下関〜門司を通る最短距離を採用。
・四国の分水界は定義しているが、近畿、九州にはそれに続くものを定義していない。
・九州は中央を通る分水界1つだけを定義している。最南端は佐多岬。

■分水嶺サミット選定の分水界
中央分水嶺が通っている市町村によって構成された「全国分水嶺市町村協議会」選定の定義。国土庁後援。毎年持ち回りで分水嶺サミットを開いているそうである。
・北海道は襟裳岬からの分水界を除外している。
・本州北端は下北半島。八甲田山の付近で『日本国勢地図』の分水界と合流。
・近畿〜四国、四国〜九州の分水界を含んでいない。
・四国は孫崎を起点とし、愛媛〜高知県境を西に向かったのち大きく南下して、高知県大月町へ。
・中国〜九州にかけては下関〜門司を通る最短距離を採用。
・九州は中央を通る分水界と、英彦山から平戸へ西進する分水界の2つだけを定義している。最南端は佐多岬。
・また、沖縄に対しても分水界を定義。

■近藤善則氏選定の分水界
・四国の東端を蒲生田岬とし、剣山を通る分水嶺を提案。近藤氏は山歩きの観点から分水嶺を見ておられるので、吉野川の右岸に高山がないことなどからこちらを推している。
・上記のような理由もあって、佐多岬側(大隅半島)の分水嶺だけでなく、薩摩半島側の分水界も定義しておられる。南端はもちろん開聞岳。

■海上保安庁選定の分水界
もう一つ、海上保安庁の定義というものもある。正確に言えば「海上保安庁の定義した海域から判断される分水界」といったほうがいいかも知れない。海上保安庁発行の季刊「小路」108(Vol27, No.4)、P40に「海のQ&A 日本周辺の海岸区と灘」という題で海岸の区分が記されている。この海域に流れ込む川を隔てる線として分水界を定義できるわけだが、国土地理院の分水界定義よりもさらに細かくなっている(例えば北海道には5つの分水界が引ける)。
 
[海域の区分]
 
北海道南岸
白神岬〜納沙布岬
北海道東岸
納沙布岬〜知床岬
北海道北岸
知床岬〜宗谷岬
北海道西岸
宗谷岬〜白神岬
本州北西岸
村崎ノ鼻(下関市)〜龍飛埼(青森県)
本州北岸
龍飛埼(青森県)〜尻屋崎(青森県)
本州東岸
尻屋崎〜野島崎(千葉県)
本州南岸
野島崎〜日ノ御碕(和歌山県)
南方諸島
伊豆諸島〜小笠原諸島
四国南岸
蒲生田崎(徳島県)〜高茂崎(愛媛県)
瀬戸内海
日ノ御碕、蒲生田崎を結ぶ線〜佐田岬(愛媛県)、関崎(大分県)を結ぶ線〜村崎ノ鼻、六連島(山口県)、馬島(福岡県)、石峰山(福岡県)を結ぶ線の内海域
九州北岸
石峰山〜牛ヶ首(長崎県)
九州西岸
牛ヶ首〜野間岬(鹿児島県)
九州南岸
野間岬〜佐多岬(鹿児島県)
九州東岸
佐多岬〜鶴御崎(大分県)
南西諸島
大隅群島(鹿児島県)〜先島群島(沖縄県)及び大東諸島(沖縄県)

以上の定義の資料は近藤善則氏から頂きました


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