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物logue - Nata KIYUTSUNA

 

 ナタである。せっかくキヨツナという名前があるにも関わらず私の主人は私を「最小自乗法」と呼ぶ。失礼な以上に意味不明な話だ。

 私は1997年の秋だったかに主人に買われ、以来サイクリングの際にはほとんど必ずといっていいほどお供している。はじめは何でサイクリングにナタが要るんだと訝ったものの、初めて連れて行かれたホハレ峠とやらでその理由がよく判った。ススキやひょろひょろ伸びる枝やらをいくつもいくつも切りながら、変な主人に買われたものだと自分の身の不運を嘆いたものだ。それ以降も、私で料理を作ったり───主人は「鶏肉がよく切れる」と瞠目していたが───缶詰めを無理矢理開けさせられたりと、遭ってきたひどい目を挙げはじめたらきりがない。

 とはいえ、悪いことばかりでもない。ステンレス製の安っぽいナタに生まれたからにはぞんざいな扱いを受けて早々に朽ちていくんだろうなあと思っていたものの、この主人はけっこう気に入ってくれたらしく、専用のケースを作ってくれたり、───ほんの時たまだが───砥石で磨いてくれたりもする。もともと緩かった首に細工をして、いっぱしのナタとして機能できるようにしてくれたのも主人だ。そして何より、安物のナタの分際で日本全国を旅できたことはモノ冥利に尽きるというものだろう。そうして、私ほど日本各地あちこちの木を切ったナタはそうそうあるまい。変な自慢をするなって? いいじゃないか、こんな機会でないと話をすることなんてないんだから。


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