わいは時計や。言っとくけど普通の時計やあらへんで。キルビメーターがついとんねんで。標高計れたり衝撃に強かったりちゅう腕時計は掃いて捨てるほどぎょうさんあんねんけど、距離を計れる腕時計っちうのは世界広しと言えどもわしだけや。どや、すごいやろ。旦那はんが気に入っとんのもそこや。ほれ、チャリンコでいろんなとこ行きはるやろ。やから距離を計れるわしが役に立つちうことや。・・・何。そんだけしか能がない？ いらんお世話や。
ここに来たんは、ええと、確か6年くらい前やったな。ホンマはこの旦那はんの兄さんがわいを買うたんやけど、何や知らん、使わんと引出しん中にほおっとかれとったんや。で、それを今の旦那はんが引き取ってくれたと。聞いたら旦那はんは高校の時分からわしの兄弟分を使っとって、それが無うなったからわいを代わりに使うようになったちゅう話や。何やわし代わりかい、ってそん時は思ったけどや、まあそんなことはどうでもええわ。暗いところでクサっとるよりかはなんぼかマシやで。
それからちゅうもんの、電池交換2回、ベルト交換2回、何でか知らんがベルトの軸だけのうなってしもうてそんだけ交換してもろたこと1回。歴戦の猛者ゆうたら格好ええけど、ほんとは旦那はんの物もちが悪いだけや。ホンマ、どうにかしてほしいでこの扱いの粗さは。使うんはええけど、もちっと丁寧に扱ってほしいわ。こう見えてもわし精密機械やで。判っとるんかいな。
ところで、何でもわし、どう頑張っても2038年までしか動かんちう話や。ほら、32ビット秒カウンタとか何たらいうやつが、ほら、風呂屋がなんたら言う、あれのせいや。何で風呂なんかはよう知らんけど、そう旦那はんが言っとったからそうなんやろ。でも、旦那はん、わいの保証書取っとるから、その年まで使い続けて、いよいよ動かんようになったらCASIOに交換してもらうつもりでおるらしいわ。取説にそう書いとるしな。せやけど、それまで壊れんと生きとかなあかんちうのも、今の旦那はんのもとではしんどい話しなんやけどなあ。ま、せいぜい頑張ってみるわ。