柱本の手堀り隧道(隧道〜細川)


 

 

 

 

 ポータルの石組みが端正に切り揃えられているのに対し,内部の石組みは自然石そのままである.小石を多数含んだ礫岩だ.さらに奥に進めば石組みがなくなり,ポッカリと空いた素堀りとなる.壁には無数の白い筋が通っていて,典型的な堆積岩地質であることが見て取れる.天井が高くなったかわりに,中央やや細川寄りの所で折れ曲がっていて,出口の明かりが半分しか見えない.常のトンネルにはないこうした手抜きも,手作り感が濃厚に出ていて悪くない.

 隧道の延長は約100m.細川側も同様に石ポータルである.柱本側のアーチにはアーチを上から押さえる石がなかったが,こちらにはそれがある───気休め程度ではあるが.あるいは柱本側にも,かつてはあったのかも知れない.キーストーンを用いていないのにアーチが保たれているのも此辺に理由がありそうだ.

 この小ささであるにも関わらず,以前は車が通っていたらしい.というのも,隧道出口に制限高さ1.8mの看板が建っているのだ.近代と現代が混在している風景.登山道に町境看板のあった鴨内峠・佐仲峠を思い出さずにはおれない.今も通る車があるかどうかは不明だが,やはりスズキの白い軽トラックが最も似つかわしい.


 細川側の道は舗装されていない.やや荒れ気味の地道である.杉林を駆け下って,渓流沿いの道になると細川集落は近い.古ぼけたコンクリート橋を渡れば目の前の空が開けて,集落に出たことを教えられる.この橋のたもとは別の林道との分岐になっていて,分岐の又には「左大阪きいみとげ道」と記された道標が建っている.隧道を通る道は,細川の側からすれば柱本・紀見峠を経由して大阪につながる道でもあったのだ.残念ながら,建之の年までは書かれていない.


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