畑野浦隧道(佐伯側〜隧道)


■調査 Experiment

 大分一の清流と呼ばれる番匠川の,河口の三角洲に発達した佐伯市.県南の道路はすべてここに通じここから始まると言ってよい.国道388号───地元では親しみを込めて「さんぱっぱー」と呼ばれる───もまた佐伯市を起点として延びて行く道である.佐伯市街から佐伯大橋で番匠川を渡り左折,道なりに進めば畑野浦方面.滔々と流れる木立川に沿って進む.冬の朝などは一面に朝霧が立ち込め,得も言われぬ風景が現出する.

 木立川の右岸を進む道は,築良田の辺りで川を渡り,左岸に移る.角道,桟敷と小さな字をつないでゆるゆると高度を上げるが,本格的な登りは最奥の集落・大中尾から.旧国道の分岐もここにあって,昭和56年3月竣工の新大中尾橋のたもとである.左手に折れれば1.5車線のアスファルト舗装が,集落のある谷底を離れてぐいぐいと登って行く.旧道は杉の林に囲まれほとんど展望が得られない.時おり林が薄くなって,そのすき間から新道と家が見える程度だ.この後大中尾ダムの付近から登ってくる道と合流するため,わざわざこの区間を走る意味は薄い.しかし豊富な水場があって旧道泊にはうってつけだし.ダム付近には国道388号の看板が一つ忘れられていたりする.全区間中で唯一の忘れ形見である.

 大中尾ダムを見下ろす尾根で,旧道は変化を見せる.それまで舗装だった道から地道へ.アスファルト道から直角に近い形で,かついかにも作業道といった体の細道で分岐するため,アスファルト舗装につられて行き過ぎてしまいそうだ.分岐より以降は完全な1車線道となる.ここから隧道までの標高差は約200m.数字的にはそれほどではないが,峰が急角度でそびえ立ち,そこを大きくつづらを折りながら登る道が見上げる高さに見えている.なかなか迫力のある光景である.

 

 

 

 登れば登ったで,「これがかつての国道か」というような狭道悪路.離合はまず無理だったろう.ここも杉林の植生だが,2005年の時点では伐裁後の第二陣が出番を待つ最中であって,視界を遮るものはない.最高のビューポイントはかなり上にあるので,しばらくは悪路との格闘に集中して,眼下に木立の村々を見下ろしながら休憩だ.

 

 

 再び杉の林に囲まれ出すと,隧道はすぐそこ.ただしその前に,道を寸断する大亀裂を渡らなければならない.


 

 

 

 渡れば畑野浦隧道北口坑口.コンクリート製である.一面を苔が覆っていて,周囲の自然に完全に融け込んでいる.扁額は白地に赤で「道隧浦野畑」と右書きされているが,本来ならば目立つはずのその配色も,埃の中に埋もれて力を失っている.それにしても白地に赤という───目出度いけれども───奇抜な色の組み合わせにしたのは何故だろう.日本中探しても,こんな派手な銘板はあるまい.


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