旧池田隧道(神通側)


 半分ほどが土に埋まっていて,坑口の全ては見えない.開口部の小ささもあいまって土管か何かのようにも見える.しかし接近してみれば,ほとんど損傷のない美しい煉瓦ポータルの,旧池田隧道だ.

 笠石の下には煉瓦を斜めに配したデンティル.アーチは3重の煉瓦であって,遠く離れた福岡県の欅坂隧道や金辺隧道を思い出させる.そうして綺麗なフランス積みのスパンドレル.

 明治16年竣工の鐘が坂隧道の煉瓦は表面が剥離して凸凹になっていたが,この旧池田隧道のそれには一切見られない.湿気をもった褐色の肌が苔の下でしっかりと息づいている.子細に見ればこの煉瓦,形が微妙に不揃いであって,間をつなぐコンクリートの目地も少々荒い.端正さという意味では劣るが,いかにも手仕事といった温もりが感じられて逆に好ましい.

 気になるのは左手の欠損.端面は不整合で崩壊しているようにも見えるが,その辺に散っているはずの煉瓦のかけらがない.確かにその端は岩磐から浮いてはいるが,割れてできた断面ではないように思える.むしろ山肌に沿って作られていたものが,土石の流出で中に浮いてしまっているようだ.この端面を横から見ると,2重になったフランス積みの構造がよくわかる.

 

 

 

 

 

 

 内部に入ってみる.煉瓦と煉瓦をつなぐコンクリートから石灰分が溶け出して,壁のあちこちに白い塊を成している.鍾乳石と化した一部は4〜5cmもあろうか.そして残念なことに,ポータル裏面に相当する所を,アーチを半周する形で走る亀裂.この隧道もまったく安泰という訳ではなさそうだ.
 入ってすぐ面白いことに気付く.入口から10mも行かないところで煉瓦巻きが途絶え,幅1mほどの岩磐がむき出しになっているのだ.その奥に2重〜3重ねになった煉瓦巻きが続いていて,あたかもポータルのアーチが繰り返されているかのようだ.
 隧道は短いようで長い.緑色に光る出口が,向こうに小さく見えている.足元はしっかり固められた土に大きな石が敷かれている.どれも丸みを帯びていて,ブーツの靴底からもその軟らかさが伝わってくる.奥に行くにつれて溶け出したコンクリートの染み塊が目立つようになるものの,煉瓦そのものには全く損傷がないのには驚かされるばかりである.



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