観音峠(園部側)


 かつての峠道は御堂の鳥居前に残っている.この付近の道幅は広い.しかし,すぐに背丈の2/3ほどの笹藪に包まれてしまう.足もとはべちょべちょだ.この藪はまだ比較的浅く,すぐに抜け出せて,道は桧と竹の林の中へと入って行く.

 林の中の道形はよく残っている.但し先程の藪からも察せられるように,ここ数十年は人の往来が途絶えている道である.蒼いままの真竹が何本も倒れかかって道を塞いでいる.迂回するために左の林へ逸れると,そこに塚のような土盛り.林の一角を5m四方ほど整地して,そこに土を盛っている.この塚については考察で述べたい.
 竹藪道はその先で大きくカーブし,S字に折れて行く.その先で2手に別れるが,どちらも後で合流する.合流してからやや進んだところで,左手と右手から沢が入って来て,その先で合わさってしまう.道が消えてどっちに行ったものか迷うが,続きは左手の沢の向こうであった.

 周囲がパッと明るくなる.林を抜けた.今度は薄の原だ.左手斜面から目の前の空間にかけて一面の薄の原.綿毛になりかけの薄が風に揺れている.国道工事に関連して整地されたものらしく,左手の見上げる高さにショベルカーも見える.振り返れば今抜けてきた森が黒々としている.薄の穂の白との好対称だ.
 薄の原はそれほど高い密度ではないので,その間を楽々と抜けられる.古道の趣は無いが,楽なのは有難い.

 

 

 

 

 
 しかし,その先,場面は一転する.薄の原が途切れて一段低くなる.谷が一直線に見渡せる.そうしてその谷の50mほど向こうまで,常緑の笹の藪.ちょうど段々畑の一つが丸々笹藪になっているかのようだ.そこから先の道は,ぷっつりと途絶えてしまう.
 とりあえず降りる.それっぽい平地はある.しかしそれは,か細い笹がびっしりと茂る笹藪に囲まれている.どこをどう辿っても笹藪.しかもこの密度はどうだ.踏み分けることもかき分けることもできない位に密に茂っていて,しかもそれが互いに絡まりあっている.自転車も,人さえも,その間に入ってゆくことはできない.左の斜面の側に小さな廃屋があり,道のようなものもあるのだが,それもまた一歩たりとも進めない笹藪だ.辺りを調査した結果,右手斜面に沿って沢があることがわかり,とりあえずはこの沢に沿って進むことにする.

 そのうち敵は笹だけでないことを知る.笹に混じって茂る潅木には蔦.自由自在に空間を縫ってその場を占拠している.自転車を押し込もうものなら絡み取られること必至だ.ナタで切り開きながら進むがその全てを断ち切ることはできない.残った蔦+笹の弾力に逆らいながら,体と自転車を無理矢理ねじこんで行く.
 足もとは泥である.動物たちの泥浴びに恰好の場所なのであろう,鹿の足跡が深く鋭く残っている.そうこうしている間にも,目の前の藪が大きな音をたて,その音が林の向こうに飛び跳ねて行く.あれぐらいのしなやかさがなければ,とうていこの藪を抜けられそうにない.

 

 

 

 

 

 道をたどるのを諦め,沢の中に入る.まだ歩きやすいものの,上から覆ってくる木の幹がかえって邪魔だ.左手の藪が浅くなったのを目の隅で捉え,上がってみるが,結局はまた深い笹に阻まれて進めず,無駄な体力を消費した上で沢に戻らねばならない.このシチュエーションは,確か,江浪峠で経験している.
 そのうち沢すら笹に包まれ,高さ50cmほどのトンネルになってしまった.これでは沢を辿ることもできない.上に上がれば上がったで,高密度の笹.もうこうなると,この笹と真向勝負しなければならぬ.全体重で笹を押し分け,蔦をナタで切り裂き,自転車をひきずり出す.絡まる笹を引きちぎろうとする無駄な運動.

 

 
 笹のトンネル部分を抜ける.沢に戻る.もういい,濡れてやれ,と沢に足を突っ込んで歩き出した途端に,左手に道を見つける.上がってみれば確かに道.先程の廃奥から来るもののようだ.東西に伸びる谷だから,よく日の当たる側に道がつけられているのは理にかなっている.道はやがて車の轍を有するようになり,獣避けの柵を越えて,コンクリート護岸となった沢のほとりに出る.対岸にはきれいなきれいな地道.

 そこへ渡るための橋はもう少し下流にある.架かっている橋は道なりにあるものではなく,この沢のコンクリート護岸が作られた頃にはすでに捨てられた道となっていたようだ.きれいに手入れされた畑に沿って下ると4軒ほどの廃屋が集まった集落跡.人が住んでいそうないないような荒れようがかえって不気味さを増している.ここからアスファルト舗装となった道は,きつい坂道となって国道に合流する.


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