軽岡峠(三尾河側-3)


 藪の続きに入る.相変わらずぐずぐずの地面に若木の通せんぼ.2002年の報告者のように,六厩の側から登った人があったら,ここに到るまでにかなりの疲労を呈しているはずである.足の上がらないそんな時には,草木の下に隠れている木の根や岩に足を取られて転倒しやすい区間だ.老婆心ながら注意されたい.気休めに杉林の向こうを覗けば,高速道路の三尾河トンネルが見えたりするかも知れない.

 この段を抜ければ,再び山毛欅林に挟まれた熊笹道.この境のあたり(ヘアピンの先端)で,道らしきものが尾根筋を通り抜けているのを発見する.深い堀込みはないものの,木と木の間隔にそこだけ違いがあり,そのすき間がまっすぐに森を分けている.その脇の木には赤スプレーでマーキングもされている.何なんだろうと思いながら,写真に収めなかったのは不覚だ.この道について,後で重要な情報を入手することになる.

 道の残り具合いは秀逸だが,やがて根から倒れて朽ちている大木が道を塞ぐ.その奥の谷には,誰も通ることのなくなった道をけなげに支え支え続ける石組み.この森のなかにひっそりと残る人工物,それを取り込もうとする自然の姿が印象的だ.

 測量点1108のピークをくるりと回って行けば,左手山側斜面に異形の木.とぐろを巻いた竜のような,と報告者が記憶していた木だ.横に這うように伸びた根は,根というよりも幹の一部のような太さと肌をしている.それに赤松が巻き込まれながら寄り添って育っている.背後にはやはり切株のような根のような,それでいて生気のある良く解らない木の一部が見える.全くもって,どこがどこなのかわからない.山の基質はホハレ峠と同じ火成岩頁岩か風化花崗岩のようであり,表土がそれを薄く覆っているに過ぎない.そこへ生えた桧が表土ごとはがれて倒れては,その姿勢で生きながらえ,育ってはまた転倒し,といった生涯を想像してみたりする.AM11:00.

 ここから先はほぼ一直線.小さな谷と尾根をいくつも越える.道の4/5が落ちた所も1カ所ではなく,さらに上から木の根が転がり落ちている所さえある.道一杯のその木の根をクリアするには,崩れた斜面をトラバースせねばならない.かと思えば,谷奥では石組みできれいに盛られた道が残っていたりする.どちらかといえば道の残り具合いが良いほうなので,変化を楽しみながら進んだ方が良い.もちろん,生木の柵も忘れずに現れる.

 右手の谷に対岸が近く見え出して,それが手の届きそうな近さになったところで最後の大ヘアピンに到達.谷奥には水場があり,よい休憩になる.まばらに山毛欅が生える斜面に,2方から沢が入って来て,道のあたりで一つになっている.もう少し遅ければ紅葉が綺麗だったかも知れないが,どちらかといえば報告者は,精気のある緑の森のほうが好きだ.特にこういう,見通しの効く落葉樹の森が.時間と体力さえあれば,どこまでも彷徨ってみたくなる.AM11:30.

 ヘアピンを過ぎて尾根を折り返すところに,特徴的な「ねじれ木」がある.ねじれているというより結び目ができているかのようなカタマリを持った木である.若木の頃に誰かがいたずらで結んだのかも知れないし,山神の木数えの日に山へ入ってしまった杣人の成れの果てかも知れない.いずれにせよ,自然の生命力というものはすごいものだ.
 このねじれ木から隧道南口までラストスパート.若木密度がかなり上がってくる.特に隧道直前は一面の林造成中地帯であって,慌てると痛い目に遭う.今まで以上にじっくり進まなければならない.



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