小野尻隧道(丹波市側アプローチ〜隧道東口)


■調査 Experiment

 旧丹南町を南北に貫く国道175号から県道86号へ入る.昭文社のツーリングマップルでは十字に交わっているようにあるが,実際は段違いになっていて,西へ向かうにはやや北の所から折れなければならない.JA丹波氷上の前を通って,うらぶれた居住区を抜け,和田大橋を渡って左すれば,あとは峠まで道なりである.

 和田の辺りには薬草園兼公園.この地は江戸時代から薬草栽培が盛んだったとのこと.小畑から南に大きくカーブして,はじめてまとまった登りとなる.現地の地名看板では富田とあり,小野尻はまだ先かと思いながら歩を進めるが,結局それは現れず,地名を見ることなくトンネルへと至ってしまう.昭和53年3月竣工の至ってノーマルなコンクリートトンネルだ.

 

 

 

 

 

 

 

 

 小野尻隧道へは向かって左手に分岐する.草まみれだが幸いなことに廃道という程酷くもない.10mほど先に3.3mの高さ制限看板が見えていて,そこで右手に折れれば,先にもう隧道が見えている.あっけない.

 隧道前は倒木や落石でわやくちゃな状態だが,その下は舗装されているらしい.隧道方向から流れてくる水が盛り上がった土砂を割って,その下のアスファルトを洗っている.舗装の上のゴロゴロした感触を味わいながら,隧道の前に至る.

 隧道ポータルを一瞥したときにまず目を引かれるのが,そのポータルの色だ.紫色をしている.上の谷から激しく沢水が迸っていて,その沢水を被っている石組みポータルの表面がことごとく紫色─より厳密に言えばマゼンダの強い赤紫色─をしているのだ.石そのものの色でないことは,常識的に考えても,乾燥している部分や欠損部分が普通の色であることからも明らかなのだが,水苔の類とも思えない.まるで化学反応で着色されたかのような色である.ポータル面に見えている四重の煉瓦アーチの赤茶色と所々を覆う苔の緑が,その赤紫色と毒々しい対比をなしていて,それが不気味さを演出する不協和音となっているようだ.

 さらに子細に見ていく.アーチはほぼ真円に近い比率の楕円半円アーチ.ただし要石だけは石で出来ており,かつそれだけが大きく損傷している.接する煉瓦も巻きぞえになって数個壊れている.環になっている煉瓦はそのまま隧道内部のアーチにつながっており,これは池田隧道や欅坂隧道と同じで,当然ながらその方がポータル強度が上がるだろう.要石は60〜70cm位の奥行きがあるが,それより奥は通常の煉瓦巻きとなっており,ここだけに普通の石が使われている理由がわからない.要石の破損とともに意味する所がありそうだ.

 

 

 

 

 ポータルを覆う石は一見するときれいに残っているようだが,子細に見ればあちこちで表面が剥離していることが解る.アーチの基部の石組も同じように崩壊しており,用いた石の材質に問題があるようだ.表に出ている煉瓦の大きさを計ってみると,おおよそ222×62×110mm.ばらつきはあるが池田隧道ほどではなく,1ランク上の工業品という感じがする.


 そして,内部調査へ.金網の向かって右手が扉になっていたようで,土砂に埋もれてはいるが上部が半開きになっている.そのすき間から自転車と荷物と人間をねじ込んで行く.その向こうはかなりの範囲にわたる水溜りだが,目視の限りではさほど深くなさそうだ.


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