|行政:兵庫県猪名川町木津〜林田標高:200m
1/25000地形図:木津(京都及大阪11号-3)調査:1999年8月・2005年2月


■背景 Background

 津坂隧道は兵庫県道12号の旧道である.地形図には名前の記載がなく,また猪名川町の道路台帳上では林田隧道として管理されているが,町教育委員会の出版物では表題の名前を用いている───隧道以前の峠道は津坂と呼ばれていた───.本報告書ではこれに倣って津坂隧道と呼ぶことにする.地元ではむしろ「くろまんぷ」という愛称のほうが通りが良いかも知れない.

 隧道は猪名川町木津と林田の間にあって,明治14年に出来た手掘り隧道がその元となっている.明治14年といえば,福島〜山形間に栗子隧道と万世大路が完成し世間の耳目を集めた年.規模は全く異なるが,それと同じ時期にひっそりと作られ,そして今でも使われている.栗子隧道が朽ち果てて道の機能を失っているのとは対照的である.

 この隧道が穿たれている場所も興味深い.県道12号が,木津の先,木間生のあたりで猪名川とともに大きく蛇行する箇所がある.山の側から見れば尾根の一つを猪名川に向かって張り出している恰好になっており,隧道はその尾根に取り付いて,川面から100mほどの高さを抜けている.今となっては「なぜこんな所に」というような不便な場所であるが,川沿いに道を作るのが難しく,最短距離の峠越えを厭わなかった頃の名残なのだ.そうして,県道12号ができ登り降りをせずとも向こうに越えられる今でも、人々はこの隧道を利用している.現存最古級の石ポータル隧道であることも知らずに.


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