[an error occurred while processing this directive]

洞峠(仮称)


 久しぶりに・・・に来ている。ふっと思い立って(現実にはその近くに存在するものでない)洞峠へ寄ってみようという気になって、杉林の森へ。もちろん、自転車を担いでである。

 朝方でもあるせいか杉林のなかは薄暗い。ゆるゆると高度をあげていく。180°に近い角度で開けた谷の斜面、その最上部をトラバースするようにして峠に漸近する峠道。峠はすぐそこだ。「記憶の通り」、鞍部というよりも台地とか何とか表現したほうがしっくりくるような、やや平坦に近い峠。峠らしくない峠であるが左手には大きく落ち込んだ谷の斜面が控えており、その方角の森は限りなく森深としている。例えていうならばガラメキ峠とその日田側の森のようだ。

 が、少しだけ様相が違う。右手に小高い土盛り。杉の林のなかにぽかんと開いていたはずの空間が土壁になっている。いつのまにこんなものができたのか。それなりに古びたたたずまい、上にかぶせられた波トタン板から、何かの物置小屋のようにも思える。この土壁に沿って行けば、峠道が越えた位置━━━広場だった所の一隅━━━へ。確かにここは記憶通りだ。台地の端から緩やかに下って行く下り道が向こうに見える。土壁はこの下り口のそばで切れ、それに従って折れる道が、来た道━下り道と直角をなす形で存在するようだ。

 土壁の角を曲がってみる。今度は壁が「車壁」になってしまう。廃車が壁がわりに使われているのだ。こんな山中に車のある奇妙さと、物置小屋の一角に放置された車というありがちなイメージが一度に湧き、両者のアンビバレンシィを超越して納得してしまう。その車壁に沿って行くうちに、突如として、そうだここには洞窟があるのだと思い出す。

 そのとおり、洞窟があった。さきほどの土壁と車壁が四辺のうちの2つを構成する恰好の四角い領域に伸びる洞窟である。ヘッドランプをつけて入ってみる。防空壕のような人口的な壁面が続き、複雑に折れ曲がった洞窟。ほら、向こうからぼうっとした明かりが近付いて来る。やっぱりな。誰か来るのだ。


現実に戻る