[an error occurred while processing this directive]

擬高見峠(仮称)


 またもや合宿のようである。今日登るべき最後の峠を前にして休憩している。正確な数は不明だがつねの合宿に比べて班員の数が多く、そのせいでどこか隊商のようなこころもちさえする。
 これから登ろうとしている峠について、CLの地図を囲んで相談。自分は特に口出しすることもなかろうと思って別のことをしている。そのうち班員の一人(女の子)が「この峠に登って瀬戸内海側に出ようとしたのだけど、道が複雑で、間違えて太平洋側へ出てしまった」云々と言うのが聞こえてくる。おや。そんなはずはないぞ。その話の輪に入っていったことは言を俟たない。

 CLの地図はまるで輪転機で刷ったかのような案配で、等高線が太く滲んで見える。峠には表記がないが、おおよそ下のような感じである。

 今我々がいるのが太平洋側であり、峠の向こうは瀬戸内海側である。越えて下っていく側は、確かに、羊腸の道がいくつも伸びていてわかりづらい。が、いったんこの峠をこえてしまえばどの道も下っていく一方であり、どこをどう間違えてもふたたび分水界を越えることはあり得ない。峠への道は一本道で、担いで道なき道を行かない限り迷うはずもない。「いったいどこを通ったんだ?」云々という話になって、うやむやになる。まあ、そんなことはどうでもいいさ。我々はともかく西へ行かねばならない。目指すは山口県の某所。南紀の山々を越え、中国山地を横断し、そこへ至る道筋がぱぱっと目に浮かぶ。先はまだまだ長い。


 次の場面ではすでに峠を越え、ふもとの集落まで下りついたところである。もうすっかりと日が暮れて、そう、冬の5時6時といった案配の暗さだ。かなりの山の中であると思っていたのだが幸いにも村ではなかった。鉄筋コンクリートの小学校があり、今日はここで泊まらせてもらおうという話になる。あれ、最近じゃ合宿で学校に泊まるようになったのか。知らなかったな。俺の現役の頃にはなかったことだ。
 ちょっと校門をくぐって中の様子をうかがう。入ってすぐの左手に、土間のような吹き抜けの玄関。その向こうには庭側に開け放たれた廊下。教室らしき部屋が2つあって、その向こうで廊下は左に折れる。その突き当たりの部屋からは明かりが漏れてい、声は聞こえぬがまだ中で授業か何かをやっているらしき賑わしさが漂ってくる。どこかで見たような作りだなあ。
 そうこうしているうちに班員たちもやってきて、驚いたことにずかずかとその玄関へ入っていく。おいおい、ちゃんと許可はもらったのか? あまりにも横暴ではないか。班員はそのまま突き当たりの教室に入っていく。あわてて追いかけると、何だかよく解らないが、空いている椅子にふんぞり返ってこしかけている奴もいる。ちょうど帰りの会を終えたらしい小学生が、闖入者に追われるように、蜘蛛の子になって教室を飛び出していった。  


現実に戻る