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関門峠(仮称)


 一枚の写真。戦前のものとおぼしき、土佐の山並みを高いところから写した白黒写真だ。随所から立ち登る煙は林業の盛んな証拠。その一角の山のたわみに視線がズームインし、あたかもドキュメンタリイ番組のような展開で峠道の場面に変わる。ただし登っているのは自分である。

 峠への道は大きな石を組み合わせた石段様のもの。石畳というよりも岩場そのものといった感じの荒々しい石段である。ウトになった道のわきにはシダともヤシとも見分けのつかぬ植物。さすがは南国土佐、などと理由のない納得をしてしまう。

  幕藩時代には交通の要であったこの峠。峠は関所を兼ねた隧道である。隧道と書くとおおげさな感もあるが、高さは人一人分くらいの小さなもので、奥もそう深くない。しかも中央に壁があり、右手と左手に道が分かれている。それぞれの幅は1mもない。右手は歩きの者用で、一枚の岩に穴を開けた扉がしてある。通行する者はこの穴をくぐって中の隧道を進まねばならない。左手はそのまま開け放たれており、穴をくぐれない荷や馬を通したり、役人が検分したりするための通路だ。現在は古ぼけた家具が物置のごとくに詰まってい、こちらを通ることはできない。自転車を担いできてしまった自分は、はて、どちらを通ったものか、この奇妙な隧道を前にして思案に暮れる。


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