八草峠(1)/滋賀県木ノ本町〜峠
■調査 Experiment 八草峠を越えようとする時,報告者はいつも木ノ本駅から出発する.木ノ本はなかなか古式床しい町である.駅から東に伸びる石畳の坂道
(近年敷かれた車道)は地蔵坂といい,登り切ったところに日本三大地蔵の一つ・木之本地蔵ひかえる木之本地蔵院(浄信寺)が建つ.国道303号は右に折
れ,左すれば余呉町方面である.この通りはかつての北国街道であり,近代的なたたずまいの商店に混じって格子窓の町屋,杉玉の下がった酒屋に醤油・酢の醸
造家などが軒を連ねている.明治・大正のモダニズムを感じさせる,石造りの銀行の建屋も残っている.時系列的な統一感はないが,それがかえって安心させる
から不思議だ.他所のような「復元された」宿場町にはない生活感が感じられて,報告者の好きな町並みの一つである.
国道に戻り,高月方面から来る県道281号と合流.国道はここから真北へと進む.2000年3月に川合集落をバイパスするトンネルが完成しているが,報
告者はいつも集落を抜けてゆく.川合は全体的に,坂に発展した集落である.集落を抜ける道もゆるやかな坂だし,川にむかってもゆるやかな傾斜をなして,そ
こに建物がひしめいている. 川合を抜けるとしばらく川沿いの道.昔はここに発電所があり,それを記念するオブジェ───発電機のポンプだったかタービンだったか───が置かれていたはずだが,2004年に訪れた時はすでになくなっていた.報告者にとってこのオブジェは一里塚のような存在であった.通る度に見かけて「ああここまで来たんだ」と思い,記念に一枚撮って置こうかと思いつつ,帰りに撮るからいいやと思ってやり過ごし,そして帰りにはすっかり忘れて撮り忘 れてしまうのだ.そんな愚行ももう繰り返すことができなくなってしまった. 杉野川を渡って右岸に移る.2つの覆洞を抜けて,ひとしきり登れば音羽.頂点には音羽神社がある.下って杉本,杉野と民家街を抜ければ,滋賀県側最後の集落・金居原だ.金居原は名にあるように製鉄と関連のあった集落だというが,必ずしも「原」ではない.狭く小さく切れ込んだ谷に,寄り添うようにして民家の並ぶ集落である.ここまで来ると,いよいよ峠という感が強くなる.そうして報告者はいつもの自販機でコーヒーを所望する. 金居原の民家は独特の様式があって面白い.柱や梁にベンガラらしき赤色が塗られ,それが一際目立つ.また切り妻の家は梁の端を突き出 していて,その太さを競っているかのようだ.はたまた新しい家は,しっくい塗りの白壁に,人の背丈迄あたりを焼杉板で囲った家もあり,赤・白・黒がきりっ とした表情を創り出してまことに美しい.初めてここでこの特徴に気付いてから民家の造りに気を配りながら走るようになったが,どうやらこれは北近江一般の 特徴のようであった.過ぎてきた川合,杉野にも同じ様式の民家が並んでいる.◯◯造り,のような呼び名があるのかも知れぬが,浅学な報告者にはわからな い.
2004年夏の時点では,集落のはずれで左岸のバイパスが合流する.その先は巨大な陸橋がNow on
Constructingであった.この先道はほぼ完全に1車線となり,いわゆる酷道の様相を呈してくる.
話を旧国道に戻そう.狭路であること自体は,自転車にとって何ら苦になるものではない.しかし,路面を流れる沢水に注意しなければな
らない.夏場は特に
ミズゴケが覆っていることが多く,グリップ力のない自転車だと,登りですら転倒することがある.また,八草トンネルより上の旧道化した峠路には落石や枯木
が散乱している.調子に乗って飛ばしすぎないよう. ![]() ![]() 峠.人里離れた鋭い鞍部にさまざまなものが凝縮されている.まず目につくのが「国道303號昇格記念」の碑.旧国道八草峠のアイデンティティーといって
もいい.その横に建つ八草峠の碑,そして高みのお地蔵様.反対側には周辺の観光案内地図もある. |
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