|行政:秋田県田沢湖町〜岩手県雫石町標高:830m
1/25000地形図:国見温泉(秋田2号-4)調査:2002年8月



 生保内から見た旧国道・新仙岩峠の峠道は、さながら要塞のような様相を呈している。見上げるような高さの山の斜面に貼り着くコンクリートの切り通し。斜面の傾斜があまりにも急だからであろう、一段一段の法面が大変大きいのだ。そんなコンクリート塊に沿って越える、幾筋もの送電線。異様と言えば異様だし、壮観といってもやはり通じるに違いない。

 

 

 そんな旧道へはドライブイン「仙岩峠」の前で分岐する。さすがに勾配がきつく、7%前後の厳しい登りで大きくつづらを折っていく。生保内に面したこのつづら折れ群は平均勾配7.5%、10のヘアピンで標高差343mを一気に登り上げていく。この道が現役であった頃にも一大難所として知られていたようだ。センターラインのない2車線幅の道を囲むのは立派なブナ・トチ・ミズナラの広葉樹林。そしてこれ以上大きく切れまいと思われるような切り通しの法面コンクリートである。最上部では山の斜面全体が法面かと思ってしまうほど大きく、昭和の改修による車道の取りつけがそれだけ難工事であったことがわかる。


 つづら折れを抜けて山の裏側に回り込む地点では、2車線の片側が侵食で崩れ落ちてしまっている。それをコンクリートで補修し、さらにガードレールでその車線をふさいでいるので、ここだけが1車線だ。その先も谷側に大きく陥没した箇所があるので、近い将来には自転車が通ることすら危ういかも知れぬ。やがて右手に潰れたドライブインの建物。ここから振り返る田沢湖町方面の展望はみごとなものである。町の眺めは予想していたが、田沢湖まで見えるとは、正直思っていなかった。国見峠へはこの付近から尾根に沿って登っていくことになる。

 

 

 

 

 

 廃ドライブインの先からはトラバース道となって、勾配も緩やかになる。しかし今度は山からの落石が道を覆い始め、まともには登らせてはくれない。所々で沢が路面を洗った跡や沢崩れの跡もあり、峠までずっとこんな調子である。崩落して道に散らばった石はいろんな色と形をしており、仙岩トンネルの掘削では複雑に入り組んだ地層に悩まされたという、仙岩道路資料館のビデオの話が脳裏によぎる。


 ゆるやかにえぐれた鞍部を抜ける峠越え。ピークの脇には仙岩峠開通記念の碑が建っている。高さ3m近いその碑は巨大だが、旧道となり車が通行禁止になってしまった今となっては虚勢を張っているように見えなくもない。その裏にはヒヤ潟が広がり、青黒い水を静かに湛えている。このヒヤ潟、地形的にはあきらかに分水線より岩手側に位置するが、ここから流れ出る川というものは存在しないようだ。これも一種の分水線特異点としていいだろう。ヒヤ潟の脇には「旧秋田街道」という標識があり、国見峠へつながる。潟を挟んで反対側には旧仙岩峠への道も伸びている。


 報告者はこの後旧仙岩峠を下り、東側は改めて下から登り直した。現在は国見温泉へ向かうためだけに使われていると言っても過言ではない道は、新道から分岐した途端に勾配を上げ、いかにも旧道らしい厳しさを見せる。やはり2車線幅が続くが、秋田側に比べれば展望が乏しく単調にならざるを得ない。荒沢橋(昭和33年竣工)、鹿倉橋(同35年)、笹森橋(同37年)と多くの橋を使っての登りもまた、秋田側とは対象的である。



国見峠旧仙岩峠

 

総覧へ戻る