|行政:秋田県田沢湖町〜岩手県雫石町標高:890m
1/25000地形図:国見温泉(秋田2号-4)調査:2002年8月


 新仙岩峠から、中央分水嶺でもある秋田・岩手県境に沿って南へ。もう少し厳密に言えば、分水嶺の東にあるヒヤ潟からコンクリート舗装の1車線道で分水嶺を越え、いったん西側に出てから旧仙岩峠で再度分水嶺越えすることになる。新仙岩峠の近くの峰には新しい電波塔(のようなもの)ができており、そこへ向かう新しい道が秋田側斜面につけられているが、本来の峠道はこれではなかったようだ。


 急な勾配のコンクリート道を登り切り、尾根を越えれば、右手の谷が大きく開けるフラットな地道に。正面には何本もの送電線とそれを支える鉄塔が見え、まるであやとりをしているかのような光景が目の前に展開する。ちなみにこの道沿いには助小屋の跡があり、生保内と橋場の日常的な交易はこの場所で行われていたという。向こうへ届けたい荷物は宛名札をつけてここまで担ぎ上げて置いておく。すると向こうから荷が上げられた帰りに、その荷物を背負って帰ってくれるのである。こうしたローカルな交易は、古い日本の日常的な光景であっただろう。


 地形図では送電線の真下に仙岩峠があるように記されているが、その鉄塔に至る前に「旧秋田街道」の木柱が現れて、堀切のような峠が左手に見える。念のために鉄塔まで行ってみたが、そこから下る道はなさそうでだった。本当ならばこの付近(的方)にも「従是南西秋田領」の碑があるはずだったのだが、報告者が訪れた時はかなり霧が濃く、見つけることができなかった。

 

 

 

 分水嶺をまたいで東側へ下る。街道の案内碑が建てられているだけあってよく手入れがなされており、斜面につけられた道はネマガリタケにも倒木にも悩まされることなく、どこまでも乗っていくことができる。1m近い幅の道の中央にわざとそう作ったかのような溝ができているが、これも自転車での下りを妨げるものではない。

 

 

 

 

 

 


 つづらを下りながらぐんぐん高度を下げ、一度分岐する。ここにも木柱があって曲がるべき方向を示してくれている。そうしてさらにフラットな尾根筋の道となって鉄塔へ。鉄塔をくぐった道はミズナラの森の中に入っていき、峠道の中でも最もよく往時の道が残っている尾根道になる。これほどまでの道がこの山中に残っているということが奇跡のように思えるほどである。

 この尾根には今辿っている道とは別に、もう一本の登山道が平行して走っていた。ひょっとしたら明治以前の国見峠道かとも思われるが、こちらはネマガリダケが侵攻をし始めていた。

 

 

 

 尾根道をしばらく楽しんだ後、地形図の道の通りに斜面をつづらで下る。すぐに鉄塔が林立する緩斜面へ。鉄塔の周辺は木々が伐採されて見通しがいいかわりに、少しばかり荒れ地の様相を呈してくる。この区間は送電線保守のためにも利用されているらしく、道そのものはよく草刈りがなされているものの、鉄塔へ向かうだけの枝道が多くてやや迷い気味になる。が、下り方向を選んでいけば正解であった。


 鉄塔をつないで斜面を横断すると、開けた斜面の谷側に残った林に道は入っていく。遠目に見るとただの林だが、一歩中へ入ると古木巨木が覆いかぶさるようにして生えており、原生林のような力強さのある森であることを知る。谷底へ急激に落ち込む地形を、細かく、しかもはっきりとした輪郭のつづらで下れば、左から大きな沢が入ってくる。右手にはようやく目の高さになった坂本川の本流。いわゆる出合・落合の地形だ。左手の沢にかかる木の橋を渡って、斜面に刻まれた階段を担ぎ上げ、担ぎ下ろすと、正面の林の向こうにもうガードレールが見えている。ほっとするような、もっと楽しんでいたいような複雑な心境で林道へ。この合流点にも旧秋田街道の木柱が待っていた。

 坂本川に沿う林道は、まあ普通の林道といっていいと思うが、所々で沢により削られつつあったのが気になるところである。森を抜けて水田の広がる谷に出、そろそろかなと思う頃に国道と合流。それは橋場の集落の上、道の駅のはす向かいであった。この分岐から見える範囲には、さっきまであったような「旧秋田街道」の木柱がなく、それと知って探さない限り旧街道の分岐とはわからないだろう。


新仙岩峠国見峠

 

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