片ヶ瀬隧道


 実際にそう叫んでしまったのだから仕方無い.すさまじいインパクトの隧道である.先ず以てこの開口部の高さはどうだ.比較対象とすべき自転車が写っていないため,実際の寸法が判りづらいが,入口左右のコンクリート壁は人間の高さよりも高いのだ.明らかに自然崩壊したが故の高さであるが,それでもここまで広がってしまうものなのか.右上に宙ぶらりんになっている岩も気になる.大石峠隧道も,かくや.
 ここまで崩壊している坑口とコンクリートの壁の組合せもまた衝撃的,その上には丸太が何本も渡されている.落石から「通行」を護るためなのであろうが.丸太はスカスカでかつ朽ちつつあり,もし先の巨岩が落ちて来ようものならひとたまりもない.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 中から外を見てみる.実に不思議な光景である.縦長に広がった緑の世界を縁取るのは,素堀りの土肌とコンクリート壁.朽ちた木が微妙に視界を遮って,全く,これが何なのか,直ちには判らない.

 

 

 隧道は短い.すぐ先に出口が見えているが,そこまでなだらかな下り勾配となっている.後半はまだしっかりと固まった凝灰岩で?,ノミの跡も露わである.幅は狭く,足もとには段が薄く彫られていて,完全に人道であったことが伺える.右手側壁には電線らしき銅線も通っていたりする(写真は滑瀬側から).

 

 

 

 

 

 滑瀬側坑口.垂直に切り立った崖下の,わずかな凹みを基点にして掘られたものらしく,自然に溶け込んでしまっている.人為的な隧道というよりも洞窟開口部か何かのようだ.さきほどの銅線はこの隧道口まで来て,街灯らしきもの───昔の漫画で出て来そうな,丸いブリキの笠をかぶった裸電球の───につながっていた.当然それは,すでに機能することを止めて久しい.

 隧道口の左手は小さな広場になっていて,崖下に青面金剛像が祭られている.三つの顔を持ち,印を結ぶ手の他は剣,斧,如意輪如意棒を持っている.この神様は牛馬にご利益があるとして,この道が廃止されてしまった後も,多くの牛方・農業家の信仰を集めていたという.傍らには江戸時代の道路改修を記念する碑もあるが,文献によればこの隧道以前の峠越え道を指すものだということだ.

 さて,ここから滑瀬へと下る.道はのっけから廃道である.ここ数十年の人々の足は,先の青面金剛像までであったようだ.最初にいくつか倒木を跨げば,しばらくは自転車を押して進める.木々のすきまからは大野川に沿う国道502号も見える.距離はそれほどでもなさそうだ.

 が,しかし,一箇所だけひどく荒れている場所がある.幅20mほどの谷にさしかかったところで道跡がぷっつりと消え,緑の薮に包まれてしまう.対岸を見れば道の続きらしきものも見えるが,そこまでの谷はよくよく見れば杉の倒木である.谷の杉がすべて倒れたかと思うほうどの密度で絡まりあっている.道と同じ高さを保ちながら水平移動することすらままならぬ.この区間だけで10分近くを浪費した.

 

 

 

 

 ようやく渡り終える.あとは砂防ダムの前を通り,2〜3回折り返して国道に至る.途中の砂防ダム前には,なぜか立ち入り禁止の「碑」.しかもそれは平成15年の銘でありつい最近建てられたものだ.建てた方は何を意図して通行禁止を叫ぶのだろう.反対側からやってきて,立ち入り禁止区間に立ち入った後にこの碑を見てしまった報告者は,しばし罪悪感に因われた.


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