旧長野隧道(美里村側-2)

 

 

 

 それは道なき道の向こうでがっしりと存在していた.旧長野隧道美里村側坑口.偏額が抜き取られている以外はかなり保存状態が良く,重厚な石組みポータルとそれを支えるピラスターが圧倒的な存在感でそこに在った.「近代土木遺産2000選」では総切石造とあり,そんな総切石造の隧道を初めて見た報告者であったが,ここまで迫力のあるものとは.アーチ環の輪石は異形状のものを組み合わせ,全体として一個の装飾となっているのも美しい(何故か桜の代紋を連想してしまった).そして一つひとつの迫石の大きいこと!いかにも崩れそうになく,機能美構造美とはこういうもののためにある言葉だろうと思わされる.


 

 

 

 天井は煉瓦を縦に2つつなげたような細長い石で組まれ,側面はまた別の線刻を施した石が使われている.完成直後はさぞ美しい隧道であったろうと思う.し,今でもこれほどの隧道が,建造当時の姿に限りなく近い姿で残っている處もそうそうあるまい.ただ,子細に見てみるとやはり崩壊が進行していることがわかる.ポータルの石群と内装との境付近に亀裂が走り,そこから水が滴っていた.ピラスターの根元も崩壊しつつあったが,こちらは表張りが剥落しただけなのかも知れない.
 隧道内部は薄く水が張っている.中央のシマを辿って奥へ入ってみた.資料によれば延長200m余りというが,20mほど入った所で真っ暗となり,怖気づいた報告者はそこから振り返って写真を撮るのが精いっぱいであった.やはりヘッドランプは常時携帯せねばならない.


旧長野隧道・大山田村側長野峠旧道史

 

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