佐和山隧道(第一次調査:その2)

 正直に言う.目の前にあるものに怖気づいた.確かにそれは目指す佐和山隧道だ.だが実際問題として,それは廃虚としか見えない.これほど廃虚という言葉が相応しい廃虚もない.上から横から枯れた竹が覆い被さってきてはっきりと姿を見せず,それがまた不気味さを増幅させる.ポータルの煉瓦も石組みも苔に覆われ変色し尽くしている.そして何より,そのポータルは上半分しか露出していない.
 隧道の右手の斜面が集中的に崩壊し,そこから土砂が流れ込んだようだ.隧道前がせき止められて,内部は完全に水浸しである.否,隧道全体が巨大な水タンクと化している.おそるおそる近付いてのぞき込めば,少し濁った水が満々と湛えられている.そのさらに奥には,漆黒の闇.
 隧道前は斜面の崩壊と薮,そしてこの水が作り出す沢によってズタズタになっており,思うように動くことができない.わすかなスペースを作って写真を撮るが,今度は光量不足に悩まされる.シャッタースピード3秒ですら御覧の有り様である.

 動ける範囲で調査.まずポータルは横山隧道賤ヶ嶽隧道と同じ構造のイギリス積み煉瓦+石アーチである.左側には煉瓦製の樋も見えている(右側は土砂に埋もれていて不明).空いている空間(地面からアーチの要石までの高さ)は約3mであり,隧道内には実に4m以上の深さの水が溜っていることになる.アーチ形状や迫石の形等々はスペックが似ている横山隧道とほとんど同一だ.横山隧道が今でも健在なのを思うと,哀しく憐れに思えてくる.
 ポータルに掲げられた扁額もまた,横山隧道・賤ヶ嶽隧道と同じ篆書の一文だ.ただでさえ判読し難いのに苔に埋もれているためさらにわかりづらい.かろうじて撮れた写真を見る限り,最後の2文字は「妙門」であるはずだが,頭2文字は何と読むのだろう.

 隧道内部の右手にも土砂が流れ込んでいて,これに沿って10mほど中に入ることができる.しかし例によって水蒸気が立ち込めており,そこから奥は全く何も見えず.ヘッドランプも役に立たない.ポータル裏側にはアーチを一周する亀裂.そして,フラッシュで撮った写真により解ったことだが.向かって左手の壁面にも水平方向の大クラックが入っている.これほど大きな亀裂が水平に入っているのは初めて見るものだ.

 時間がないこともあって,調査はこれで打ち切り.もっと道具を揃えてこなければ,これ以上は調べられない.


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