湖国の旧隧道群

■背景 Background

 滋賀県の「近代化遺産調査報告書」を紐いてみる.琵琶湖を抱える県だけあって,まず第一に治水関係の遺産が多いが,旧道倶楽部の興味の対象である隧道についても見るべきものが数多くある.特に大正の中頃から昭和の始めにかけて集中的に隧道が作られており,いずれも優れた意匠を持つうえに,現役で使われている,あるいは現役に限りなく近いものばかりである.近代化遺産と銘打つにふさわしい「作品」群といえる.

 そして、その「作品」のほとんどを設計したのは一人の土木技師であった.彼の名を村田鶴という.近代化遺産の調査報告書でも彼の存在に注目し「どのような経歴の人物か明らかにする必要があろう」と記しているが,それが明らかになった様子はない.

 本報告書では.これら隧道群の今を調査すると同時に,設計者であるということ以外に何ら知られていない村田氏の姿を追う.その意味からすれば本報告書は,専門家でもない一個人が,埋もれてしまった歴史をどこまで掘り起こせるかに挑んだ記録でもある.

 当然,本報告書は───未だ見ぬ───村田鶴氏に捧げる.そして当然,BGMは「地上の星」である.


隧道名

道種

行政

着工/
竣工

設計者

構造
(ポータル/内部)

杉本隧道
(丹生隧道)

県道杉本余呉線

余呉町〜木之本町

大正6年/
大正7年6月※

滋賀県

煉瓦

佐和山隧道

国道8号

彦根市

大正8年6月/
大正13年6月23日

村田鶴

石+煉瓦/煉瓦

横山隧道

県道大野木志賀谷長浜線

長浜市〜米原市

大正8年冬※/
大正12年春※

村田鶴

石+煉瓦/煉瓦

鈴鹿隧道

国道1号

滋賀県甲賀市〜三重県亀山市

大正11年6月20日/
大正13年7月20日

?

石+C/CB

百瀬川隧道

県道小荒路牧野沢線

高島市マキノ町

?/
大正14年※

?

石+C/CB?

賤ヶ嶽隧道

県道飯之浦大音線

木之本町

大正13年3月21日※/
昭和2年8月31日※

村田鶴?

石+煉瓦/煉瓦+C

档鳥坂隧道

国道303号

木之本町

?/
昭和7年11月※

?

石+C/?

観音坂隧道

県道門田長浜線

長浜市〜米原市

昭和7年/
昭和8年3月※

村田鶴

石+RC/CB

湖北隧道

町道八田部岩熊線

西浅井町

昭和8年3月/
昭和9年3月31日

村田鶴?

石+RC/RC

谷坂隧道

県道郷野湖北線

浅井町

昭和8年10月/
昭和10年12月※

村田鶴

石+RC/RC

草津川隧道

国道1号

草津市

?/
昭和11年3月※

?

RC・ボックスカルバート

大崎隧道

県道葛籠尾大崎線

高島市マキノ町

昭和10年1月13日/
昭和11年6月28日

山本広次

石/CB

番外編

政箕隧道

県道永源寺川相線

東近江市永源寺町

?/
大正10年

?

?

・C=コンクリート、CB=コンクリートブロック、RC=鉄筋コンクリート.構造は建設当時のもの.
・上記※印は竣工記念碑や題額・銘板などによる.それ以外は基本的に滋賀県土木部編「滋賀県土木百年年表」に依った,


 

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