nagajisの日不定記。
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さてここに、めっちゃめちゃに傷んだ歌川広重『東海道五拾三次 由井』があったとする。
はて、どうしよう。
まずこれが本物かどうか。正直よくわからない。複製印刷じゃないのは確かである。網点ないし、裏がこうだし。バレンで擦った跡があったり顔料が滲んでいたりする。ただ後年元版から擦り直したこともあるようなのでその時のものである可能性もなきにしもあらずかも知れぬ。
真贋はさておき、木版画として見たとしても、これほど高精度で色鮮やかなものは初めて見た。よくこんなグラデーションが表現できたものだ。峠道の岩崖の色なんかも実精細。ためつすがめつして眺めては、めちゃめちゃに傷んでいることが尚の事惜しまれるのだった(しかもサッタトウゲだもんなあ。この構図はとてもいい)。幕末に輸出された陶磁器の包み紙として浮世絵が使われていたと聞くけれど、ヨーロッパに届いたそれはまさにこんな感じだったのではないだろうか。繙いてさぞ驚いたに違いない。
「保永堂版」の落款もある。擦ったのではなく押されたもののように見える。
はじめ和紙だから水張りしたらいけるんじゃね?と思ったのだが、そんなことをしてはいけない。水溶性顔料を使って摺っているので水をかけた途端にえらいことになる(多分)。かといって復原修理してもらうほど思い入れや金子があるわけでなく、しかし捨ててしまうのも勿論忍びない。金銭的価値云々じゃなくて、もとは立派な芸術作品であり文化遺産であるように思えて無碍に扱う気になれない。
うむ、どうしよう。