nagajisの日不定記。
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これまで注目されたことはないと思うが、煉瓦刻印の向きって結構重要な情報なんじゃないか。縦長に置いた状態で正対するように押されているのか、横に置いたとき正対するかの違いに意味があるんではないか。
ハンコを押す時、人は無意識のうちに向きを考えて押すものだ。印影が正しく読める向きに押す。ひっくり返ったり傾いたりするとなんだか落ち着かない。煉瓦刻印だってキホンはそうなんじゃないか。刻印を押す時は正しく読める向きに押すのでは。とすると、刻印が正しく読める方向は即ち刻印を押す作業をした時の煉瓦の向きを、図らず知らずのうちに記録しているのではないか。
すごく漠然とした個人的な印象だが、古い刻印ほど縦に押されている(縦置きの煉瓦に打刻されている)気がする。そして会社によって縦/横がちがう。これは煉瓦造りの行程の些細な違いを反映したものではあるけれども、もしこの印象が普遍的に適用できるようなものだったとしたら、縦置き刻印の系列と横置き刻印の系列で作業手順が違う>作業手順の継承が見えてくるかも知れない。
戦後の播煉で手抜き煉瓦を作っていた方によれば、目の前に型枠を横に置いて粘土を詰めたそうである。ただし「詰め」の作業では刻印を押さなかった。乾燥場に持って行き、ひっくり返す作業の時に使う板に刻印が作り付けられていて、ひっくり返す作業と同時に打刻される仕組みだった。そうして播煉の三本線は基本的に横置きだ。
西神吉で採取したこれなどは「筋」の側についていて、筋を上にした時に正しく読める向きに押されてる。
宝殿附近で見た三本線はその逆だ。筋を下にした時に正しく見える。つまりこの筋と刻印の向きは無関係。筋がこの板でつくものであるならばこうはならないのではないか。筋がついた状態のオナマを右から返すか左から返すかで違いが生じると考えてみたい。筋に対して正対するかしないか、あるいは縦刻印に筋がついているか…を今後見ていく必要があるだろう。と勝手に考えている。
YEGAWA、阪府授産所(平印)なんかは縦。丹治煉瓦も縦が多い。大阪鉄道のアルファベットも縦系と感じる。古い刻印ほど縦置きが多いと思うのはこのへんからだ。しかしT10創業の大阪煉瓦は完全に縦であって、必ずしも縦=古いというわけではない。古い作り方を大阪煉瓦が継承した可能性がある(のでは)ということ。
大阪窯業は横が優勢。窯業マーク+改+カナなどは一枚の板に作りつけたものを押しているらしい(全く同じ配置の刻印が見つかっているので)。ただしそれぞれは向きバラバラなのが謎。
五稜星も横。概して後年になるほど横置きになっていくような漠然とした印象がある。
で、前日の記に戻るのだが、上記”M”も”ホ”も縦置きであるところに注目したい。大阪鉄道のはどちらかといえば縦が優勢。傾いているのが多いけど。
岸和田煉瓦のように天地無用な刻印でも、副印がついているとどちらか判断できる。副印がついている場合はたいてい縦だ。
漢数字のみのも縦やんな。複数種見たがどれも縦。
あー、でも、若井は横と縦とあるなあ・・・。
日本煉瓦も縦と横とがある。下は桜ノ宮駅の関西鉄道橋台。幅印だけ何故か傾いてる。
手整形煉瓦の平の面には小口に沿う筋がついていることが多い(写真下辺)。『ヒストリア』の煉瓦特集号を拝読する限り、型枠に詰めた粘土を小引いて平らにする際についた傷と考えられているようだが、もしそうだとすると、平の面全体の微細な小引き傷と溝の方向が一致していなければならないだろう。実際そういう煉瓦は多いのだけれども、必ずしもすべてではない。写真の煉瓦がよい例。微妙に左上がりに傾いている溝に対し、面の小キズは左下へ斜走している。
うちにある小島煉瓦の溝なんかはもっと端的な否定材料。大きく蛇行している。焼成時に生じる歪みとは思えないほど歪んでいる。否定材料として強力すぎて自説をも否定されてしまう危険な存在。
溝の外側が比較的平滑なのがまた解せない。