nagajisの日不定記。
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せいぜい2,30年生くらいだろうと思える杉の林.幹は細いがその植え方が密なせいで「鬱蒼」という言葉が当てはまる.そんなしづやかな雰囲気の中に一ノ段はあって廃村である.聞けば一世代前まで在所があったという.民家ばかりか水田すらあり,他所と変わらぬ暮らしが営まれていたとも.私が見た石垣の連なりは人家の区画割ではなく段々畑のそれであったらしい.
集落の最も下手には墓地があった.小さな石垣で設えられた区画に,降ろされることのなかった墓石が5つ,まるで雛壇の五人囃子の如くに並んでいた.三人官女の位置には舟形にはっきり読めぬ文字を従えた石地蔵.百日紅の古木を背にし,墓石とは異なるほうを向いて佇んでいる.無理やり読むと江戸年間らしい年号と「○○女人講中」らしき文字が読めた.
ここでもか,と思う脳裏の反対側で,心はむしろ百日紅の古木のほうを思っている.生気が感じられないのは季節が冬なせいではなく,枯れてしまったからであるようだ.周りは杉枯葉で覆い尽くされていて百日紅の葉が見当たらない.幹の根元に苔が走っているのも枯れてからの時間経過を示している.
この木を伐り残して置いたのは,跡地を利用しようとした人々の最小限の譲歩であっただろうけれども,昔風の思いやりとまでは言い難い.植林されて数年,十数年のうちは,年に一度花を散らして供養にもなっただろうが,やがて日が当たらなくなり此様に枯れてしまうだろうことに気づくべきであった.年に一度の弔いの花すら失った墓標群は,ただに寂しい廃村の墓という以上に寂しく,かといってそんな境遇をかこつことなく笑み続けている石地蔵がまた,「人が生きて暮らすこと」の業深さを思わせて切なかった.
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風説の流布はいけませんよ.
風雪のウフ!