nagajisの日不定記。
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明治40年、鉄道国有法によって大小様々な私鉄が国有化されたが、その結果として国鉄が管理しなければならない軌条の種類が馬鹿みたいに増えた。その結果布達されたのが明治42年7月12日逹第623号「軌条及付属品称 呼ノ件」。種々断面の軌条を整理して新しい呼称をつけたものである。それでも60ポンドレールなんかは9種類もの分類を必要とした。重量が同じくせに、なんて思っていたのだけれども、軌条を繋ぐ継目板は軌条断面毎に違うので異種軌条を連結することができない(そういう時には専用の異形継目板を必要とした)。また断面は同じでも継目板のボルト穴の位置が違ったりする場合もある。なので細かい分類が必要だった。
鉄道院が作成した「軌条及付属品図」にそんな軌条断面・継目板の形状が寸法つきで描かれている。古レール研究家はこの図に描かれた断面と逹623号の分類を信じてレールを調べている(はず)。
なのだが、どうも納得がいかないところがある。阪鶴鉄道で使われていた軌条は60ポンド第4種と同9種に分類されているのだけれども、福知山線柵には阪鶴発注の第9種断面の軌条というものが存在しない。60ポンド第9種には阪鶴線で使用されていたものだけが割り当てられているにも関わらずだ。
60ポンド第9種の断面は同第5種とほとんど同じで、軌条の「ノド」の角度がわずかに違うだけとされている。なので断面ゲージも第5種のを流用している。その第5種のゲージがフィットするものからして無いのである。 ただ2つだけ、
CARNEGIE 96 IIII STK
と
6007 ILLINOIS STEEL Co SOUTH WKS V 1897 STK
はフィットしたけれども、これは山陽鉄道の発注品であるので第5種に分類されるべきものだ(逹623号でも新山陽型→第5種と改名されている)。6007 ILLINOISには山陽鉄道マークが入っているものさえある。ともかく上記以外に第5種/第9種のゲージが入るものが存在しないのである。
そのくせ、明らかに阪鶴鉄道発注品だとわかるものは
CARNEGIE 1896 IIIIIIIII HANKAKU
と
6015 ILLINOIS STEEL Co SOUTH WKS X 1897 HANKAKU
の2系統がある(Illinoisのは1898年1月製造のもあり)。そうしてどちらも60ポンド第4種のゲージ がはまるーーー形状は60ポンド第1種即ちASCE断面と類似しているのでそれと共通のを使っているーーーそもそもIllinoisの6015番はこれがASCE規格の元になったという断面だーーー。ここでCARNEGIE 1896に第5種ゲージがはまれば全ては解決するのだが、現実にはそうなってはいないのである。
明らかに阪鶴発注品とわかる軌条が2種類あり、どちらも第4種であって、だのに第9種が見つからないという謎状況なわけである(ついでにいうと昭和5年『保線統計』の断面別統計の解説でも「この断面の軌条は現在見当たらない」と書かれている。60-9は80年以上前から行方知れずなのだ)。これは一体どういうわけなのか。
余りに瑣末なことなので、長いこと見て見ぬふりをしてきたけれども、調査が深まっていくにつれてモヤモヤの堆積を無視できなくなってきた。あれこれ考えた末、最終的に「『軌条及付属品図』が間違ってるい」という判断に至らざるを得なくなった。この図は意外とデタラメなところがあって、50ポンド軌条の一つも明らかに寸法が間違っているものがあるうである。60ポンド第9種も実はそうなのではないか。
改めて逹623号を読んで見ると、第4種に分類された阪鶴線軌条は、それ以前は「60封度(ウェブ厚31/64”)」と呼ばれていたことになっている。んで第9種に割り当てられた阪鶴軌条は 「60封度(ウェブ厚1/2”)」。ウェブというのは「工」の字型をした軌条の縦棒に相当する部分のことで、 旧呼称時代にはその厚さが31/64インチなのか1/2インチなのかで分けられていたということだ。
てことは、CARNEGIE 1896と6015 ILLINOISのウェブの厚さを測り比べたら、疑問が解決するんじゃないか。同じ断面のように見えて実は微妙に形状が違ってるんじゃないかーーー6015は後のASCE規格だから、CARNEGIE 1896が第9種相等の軌条なのではないか。
そう想像したところまでは良かった。問題は、どうやってウェブ厚を測るかだ。しかも相等精度良く。
31/64インチ=12.3mm
1/2インチ=12.7mm
わずか0.4mmの差、なのだから。
福知山線の柵なら、それができる。写真に掲げた如くである。
そうして想像通りの結果を得た。
すごい!
まだ数本でしか確認できてないんですけどね・・・福知山線は奥深いですよ。