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2013-07-01 [長年日記]

[煉瓦] 煉瓦の風化物(塩の析出)

煉瓦隧道や煉瓦暗渠の内側に白い粉が吹いていることがある。適当に「白化」という言葉を使い、モルタルの石灰分が遊離したんだろう位にしか思っていなかったが、実際はもっと複雑な経緯でああなるらしい。

『大日本窯業協会雑誌』No.306(T7.6.)に「煉瓦の風化物に就て」という論説報文がある。その当時、煉瓦の表面に白色の無機物が析出し、構造物の景観を損なうことが問題となっていた。析出物は湿度の高い春夏に多く、積んだその年から現れて表面を汚し、またその析出物が原因とみられる表面剥離も発生した。そこでその析出物の成分や析出のタイミングを逐年で調べたものだ。(報文ではこの析出物を煉瓦の風化物と表現している)

煉瓦を積む前や、煉瓦積みをなした直後に析出するものは硫酸ソーダ(硫化ナトリウム:Na2SO4)が優勢。水に溶ける塩なので、施工時に吸収した水分や春夏の湿度を吸収して溶け、それが煉瓦表面から蒸発していくことで表面に析出するらしい。この時に出てくる硫酸塩は煉瓦自身に含まれる硫化物が出処という。煉瓦の素材である粘土は硫黄分を含むことはまずないが、焼成に石炭を使う以上、石炭に含まれる硫黄分が硫化物ガスとなって煉瓦に吸着されるのは免れない。それが最初の段階に硫酸ソーダとなって出てくるらしい。よく焼けたように見える煉瓦でも、窯出しのタイミングを誤って硫化ガスを多量に取り込んでいたため、風化物が多量に析出して一年も立たないうちに表面剥離を起こしたという実例も紹介されている。

施工後最初の秋には炭酸ソーダ(炭酸ナトリウム Na2CO3)がおもに析出。これも煉瓦由来のものという。

施工後一両年経過すると再び硫酸ソーダが析出しだす。このときの硫酸ソーダは最初のとは出処が違い、セメントモルタルに含まれていた硫化物が徐々に溶け出て煉瓦表面で析出したものとされている。セメントの影響というのは盲点というか意外というか。実際目地に石灰モルタルや粘土を使ったものは析出が少ないらしい。

さらに経年したものや、剥離によって生じた欠け・亀裂には炭酸石灰(炭酸カルシウム:CaCO3)が析出する。これもセメントが原因で、施工時にCa(OH)2として溶け込んでいたものとされている。先に易溶性のアルカリ塩を作って流出、 Na2SO4、Na2CO3を析出させ 、それが尽きるとCa塩が溶けて出てくるという仕組みらしい。最初に出てこないのは、施工前に煉瓦を水に浸して十分吸水させてから積んでいたからでもあるようだ(そのため急には浸透しない。春夏に湿潤、秋冬に乾燥というサイクルの過程で煉瓦に移っていく?)。Ca塩は難溶性なので表面に長く留まり蓄積する。

析出する塩類は多くは水分子を取り込んで水和物結晶をなす。水和物となることで結晶の体積も大きくなり、その膨張が内側から煉瓦表面を押して剥離を生じる。CaCO3、CaSO4なんかは特にその効果が覿面。

以上の理解が正しいかどうか確かめるため、ネットで調べてみたところ、最近は近代化遺産やトンネル保全の観点から煉瓦析出塩の研究が盛んになされているらしかった。そのなかで該報文が言及されているようなことはない。マイナー雑誌の論文だから目が行き届いていないのか、それとも現代化学から見ると間違った解釈なのか。


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