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2016-03-30 [長年日記]

[奇妙なポテンシャル] 同じ泉の水の末

画像の説明

過日芦屋のロックガーデンへの道すがらで見た看板。どっかで見たことがあるような気がする、と思ったら、かつて福知山線旧線の脇に建っていたやつと同じところが設置したやつだ。件の看板は最近撤去されてどこかへ行ってしまったから、生き別れの同胞が見つかったといったところだ。

第一行の棒線+「!」の辺りに特に臭気を感じる。戦前戦後の山岳文学とか紀行文とかでよく使われた表現。仔細を書く手間を省き読み手に補完させる甘えの構文である。「尚」の押し付けがましさも同臭がする。そこで念を押す必要はないと思う。加えて最後の「…ネ」が時代を戦後に固定する。あなたも私も同じ山仲間なのですよネ。ともだちですよネ。だから…言うこと聞いてネ。という馴れ合い意識がこのカナひと文字に込められている。1950年代から60年代初頭にかけて青春を過ごした人物の認めたものだろう。そして書かれたのはチオビタドリンクが一世を風靡していた頃。

別にこの看板を否定したり貶めたりするつもりはない。

[] 現代言語セミナー編『遊字典』(角川文庫)

ひどいを「非道い」と書く類の当て字ばかりを集めた字典。例えば「きりょう」の項目には「標致」「容姿」「容標」「要望」「容顔」「容色」「姿色」「面貌」「綺倆」あんていう語が並んでいる。編者が勝手に創ったもんじゃなく、実際に過去に文芸作品で使われた表現から拾ってあるというのが面白い。上記の例で言えば「容顔」は樋口一葉『たけくらべ』から、「綺倆」は夢野の『ドグラ・マグラ』から。「器量」以外は正解じゃないと習った人々はさぞ怖驚し反発することだろう。ダボが、表現なんて一意なわけねーだろ。

各語には文字の使われているセンテンスも併記されているのでありがたい。その文字が単なる当て字でなく意図があってそう表記されたことがよくわかる。妙にしっくりくるんだね、そのセンテンスでは。上記例ではうまいのがなかったけれども。

「虚蒼」と書いて青空と訓ませたのは泉鏡花。冒頭の「非道い」は確か夏目漱石が始めたんじゃなかったけか、これなんかは訓みも字面も合っていて傑作だと思う。つらつら読んでいると夏目漱石の造語がよく目について、さすが文豪と言われるだけあるなと感心させられたり、この手の極は筒井康隆『トーチカ』だろJKと思ったら案の定「多次元世界(あの世)」があってニヤけたり。あれ雑誌初出時はルビ全部削除されて掲載されちゃったそうだけれどもとんでもない話だよな。ルビが作品のキモなのに。

べつに著名な作家ばかり引き合いに出してるわけじゃないしそういう作家が使ってるから安心というつもりもないけれど、やっぱり自由に書けた人だから成果を残しているのだなあと納得したので書いておく。それから二葉亭四迷あたりの口語調草創期の作家の苦心に感心したり、いやいや万葉がなの時代から脉々と続く借字当字の文化の最終形態なのかも知れずと思ってみたりした。

似たようなことを今やると速光の勢いで突っ込まれるからつまらない。そのくせ2chの流行り言葉は安受け合いして濫用するのにな。コミュニケーションにおける文字依存が以前にも増して強くなっている昨今なんだから、この本に出てくるような表現がもっと増えてもよさそうな気はするのだけれども、IMEの候補で出てくる言葉しか通じないような世の中じゃ無理だろうし書く方も大変だ。「四顧す」(みまわす:二葉亭四迷『あひびき』)」とか、よん、こりょ、BS、る、とか入力しないとだめだし。JIS第2水準文字が入ってきたらさらに手間取る。こういうのは書き文字としてちゃんと理解している人でないと訥嗟にゃ出てこないし前後の脈絡からも準えて書かなきゃ単なる厭味になる(なるんじゃないか、そうとられるんか。こっちはそんな気毛頭もないのにね)。この本片手に言い換えをさがすようなことをしてたら直更やで>nagajis。

通じるか通じないかじゃないんだよ。そう表現してみたいと思った、瞬時の思いの残りカスなんだよ。


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