nagajisの日不定記。
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http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/831459/21
M24の濃尾地震を機に地震災害に関する調査研究を行なう「震災予防調査会」が設立され、その報告書が百いくつか公表されている。その中に煉瓦の接合の強度を試験した報告があって興味深い。第1回~第3回は種々試験のデータ、第4回にその包括論みたいなのが載っている(明治32年以前
この試験で面白いのは煉瓦をモルタルでくっつけておいてそれをひっぺがすのにどれくらいの力が必要か、ていうことを徹底的に試験しているところ。集治監製手成形煉瓦と日本煉瓦の機械成形、特にワイヤーカットしただけのザラザラした平のものとを使って表面状態の違いが及ぼす影響を見極めようとしている。通説では機械成形のザラついた肌の方がモルタル(セメント)がよくくっつくとされていた。そのほかにも煉瓦をよく吸水させるのか否か(通説では水をしっかり含ませたほうがよいとされていた)、あるいはセメント自身の水の量とか、試験体を製造する気候寒暖で差があるのかどうか、とか。
必ずしも完璧な試験ではなかったみたいだが、報告者自身の認識では
とのこと。通説がことごとく裏目になっているのがまこと興味深い。しかもそれ以降も煉瓦は充分吸水させて積むことが金科玉条のようになっていた。「オシャカ」は手抜きだとして忌避され続けた。もっとも充分給水させることは煉瓦にセメントの遊離成分が浸透するのを抑え、いわゆる「煉瓦風化物」の発生を抑制する効果があったようなので、見栄えを優先してのことだったのかも知れない。
接合強度の試験は煉瓦を十字に貼り付けておいて機械で上下に引っ張って破壊に至る力を読んでいる。こうするとたいていはモルタルと煉瓦の境界面で剥がれたようである。セメント部分が上下に割れたり、煉瓦自身が割れたりすることは少なかったように見える。つまりはセメント自身の強度や煉瓦自身の強度より煉瓦とセメントの接合面の強さが構造物の強さを規定しているらしい、という結論。結論というよりあれか、暫定的な小結みたいなものか。
実際のところ、煉瓦のモルタル剥がしを何度も経験していると、非常にあっさり剥がれる場合とそうでない場合があるとわかる。特に古い煉瓦は漆喰のような目地であることがあり、そういうのはハンマー数撃でポカッと外れる。目地が硬いやつ(上等なセメントモルタルを使ったやつ)も、目地で2つに分けるのではなく接合面に鏨をあてて面を剥がすようにしてやるほうがうまくいくことが多い。その時に煉瓦の面が剥離してしまうことはないわけではないが(焼きの甘いやつはそうなりがち)全体から見れば少数である。
震災予防調査会報告には濃尾だけでなく他の地震の際にも建造物の破損状況が詳しく載せられている。煉瓦積みの建物の破損を見てみればどれも目地にそって罅が入っている。目地自体が割れたのではなく接合面で割れているのだろうと思う。煉瓦を横断して割れているのは10中1、2といったところ。