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2026-06-19 [長年日記]

[煉瓦] 門ノ前暗渠を使ってあれこれ 2

前回

門ノ前暗渠の煉瓦が結構精度良く 9 x 4-3/8 x 2-1/4 inっぽいのをいいことにこんなことも考えてみた。煉瓦端のカット処理がどれくらいの頻度で行われるものなのか、という考察。 画像の説明

煉瓦の目地が詰んでしまった時に端をカットしたり表面だけ削って目地を盛りあたかも正しく積んであるように見せかける姑息が時おり見られる。写真は関西本線小休場橋梁のカット処理。この橋台は土木構造物にしては珍しく覆輪目地で仕上げていた形跡があり、目地が詰んで鏝が入らなかった箇所は煉瓦の端を削って無理やり体裁を整えている(写真右側の煉瓦の角が削れている。以前はここに目地を盛っていたはず)。こういう加工をされると計測の時にとても困る。煉瓦の正確な寸法が表に現れないから。橋梁橋台のような土木構造物だと見栄えとか仕上がりとかを気にしないことが多いのでこういう加工は少ないほう。一般の建築、特にフェイスの化粧張りなんかはかなり頻繁にカットされていると思う。

目地が詰む原因はいろいろあるだろうが、そも煉瓦が原理的に一定寸法に焼き上がらないものであることが最大の原因だろうと思う。長 9 in (228.6mm)を意図して作っても全部が全部この寸法に焼き上がるものではない。長7寸5分に作ったつもりでも、一つ窯から7寸2、3分~7寸7分くらいの煉瓦が焼き上がるのが普通と滝大吉も言っていた。そうして意図した寸法より大きく焼けたものが立て続けに並んだりすれば目地が詰んでしまったり全く目地を入れられなくなったりする。 画像の説明

門ノ前暗渠は 9 x 4-3/8 x 2-1/4 in の煉瓦を意図しているのが明らかだが、これでイギリス積みの長手を詰む時、煉瓦の中心を 9-1/4 in 離して積んでいくようにすればきれいに積むことができる。長手を置く都度 1/4 in の縦目地を取って積んでいくやり方でもいいと思うが、長短入り交じる実際の煉瓦でそれをやると長いやつと短いやつとがランダムに入ってくるので縦目地の位置が他の長手列と合わなくなるだろう。だったら最初から 9-1/4 in ごとに水糸を張っとくとかして位置決めし、それに合わせて積むような感覚で積んでいくほうがきれいになるんじゃないかと思う。もちろん都度目地でもきれいに積むのが真の煉瓦積み職人なんだろうけれどさ。あるいは長手端のカットを厭わずするとか。時間かかるけれど。

で、そんな積み方を考えた場合、煉瓦長が平均より6mm以上大きい煉瓦が連続すると縦目地が入れられなくなる。すなわち加工の必要が生じる。3mm以上大きいものが2つ並んだ場合(目地厚が3mm以下になる場合)も実質的には詰むのが困難になる。

とりあえず、完全に縦目地が入れられなくなる場合を考えてみる。すなわち平均より6mm以上大きな煉瓦がどれくらいの割合存在するか。これは要するに母集団の分散・母分散σ2を推定し、そっから標準偏差σを知ってアレコレすればいいのだと思う。門ノ前暗渠の30点計測の結果、母分散の区間推定(信頼度99%)は

3.16≦σ2≦12.6

となった。ルートをとって標準偏差は

1.77≦σ≦3.55

の範囲。

とりあえず最大値 3.55 を採用してみる。長手の寸法のばらつきが正規分布に従うものと仮定し(確認はしていないがまあ従うやろ普通)、標準正規分布表から(6/3.55)σ=1.69σの数値を読めば、Φ(1.69)=0.045514。すなわち6mm以上大きな煉瓦は全体の 4.55% 存在することになる計算。この煉瓦が2つ連続する確率は 0.045514 x 0.045514 = 0.002071.. = 0.2%で、500回並べたら1回は目が詰んで目地が入らない事態になることになる。

以上は最も厳しく見積もった場合。母分散≒標本分散と仮定してσ=2.35で考えてみれば

(6/2.35)σ=2.55σ → Φ(2.55)=0.005386 
∴ 0.54%が6mm以上 → 2つ並ぶ確率は 0.0029 %

となるので、まあほとんど起こりえないことになる。

6mm以上でなくても、3mm以上になれば(目地厚が3mm以下になれば)実質的に積めなくなると思うので、この場合も考えてみると

(3/3.55)σ=0.85σ → Φ(0.85)=0.197662 
∴ 19%が3mm以上大きい → 2つ並ぶ確率は 3.9%

すなわち25回に一回は目地が3mm以下に詰んでしまうことになる。結構な割合ではなかろうか。母分散≒標本分散と仮定した場合は

(3/2.35)σ=1.28σ → Φ(1.28)=0.100273 
∴ 10%が3mm以上大きい → 2つ並ぶ確率は 1.0%

すなわち100回に1回は3mm以下になる。これも案外多い気がする。今回の門ノ前暗渠の計測は北側にある翼壁で行なったけれど、実際に端カットされた煉瓦を何個か見たので、1%~4%くらいの確率で目地が詰んで加工の必要が生じるというのはなかなか納得いく感じだとおもう。

とはいえこうした端カットは橋台の端近くとか中央とかいった特定の場所に集中していることが多い。似通った場所で調整しているのは先述した割り付けのようなことをせず、真ん中から端へ向かって(あるいはその逆に)都度目地で積んでいった証拠だろう。そうやって目分量で積むのが普通だったのだろう。事前に割り付けができるのは煉瓦寸法規格がかっちり固まっていて、煉瓦もそれを遵守しているような場合に限る。9吋長を基本としているのに平均値が9-1/4吋長になってしまっている甚兵衛川暗渠のようなやつはそもそも割り付けられない(母平均わからんわけやからな)。そんなだから分散大でも問題なく積めるフランス積みが流行ったりしたのではあるまいか。

なおこの頻度で目地が詰んでしまうのは目地厚 1/4 in = 6 mm 前後になってしまう寸法規格を採用したせい。東京形 7.5 x 3.6 x 2.0 寸なら縦目地は 3分 =9 mm になるので目地が完全に詰まるようなことはないと思われる。それでも詰んでしまっていたとすれば都度積みで見当を誤ったかひどく歪んだ煉瓦ばかり使ったか。大阪城の兵器補給廠塀なんかは東京形で端カット有りだったが、あれは焼過煉瓦で作った枠に普通赤焼きの壁をはめ込む形で、壁部が柱部より目地を詰まなければならないことを考えてなかったんじゃなかろうか。

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